『ローガン』とアメリカの『老眼』(ロリータ有マス)
右手、薬指の付け根の関節が原因不明の痛みに襲われている。
リウマチかもしれない。
この歳で。
そんなことはいい。
今日は映画の感想文でも書こうかと思います。
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ここからネタバレします。ご注意を。
あらすじ『ローガン』
男は、いや、男たちは老いていた。
かつてヒーローと呼ばれていた彼も、いまや近くの文字が霞んで読めない。
かつて彼のボスだった男もそうだ。
彼の場合はもっと深刻だ。
年齢は90を超え、いまやアルツハイマーが進行中だからだ。
ミュータントと呼ばれた、はぐれ者の彼ら。
いまでは動ける者が金を稼ぎ、そのわずかな金で薬を買う生活。
メキシコ。
誰も進んでは行きたがらない荒野に、ひっそりと地下にでも潜るように暮らしていた。
唯一動ける男『ローガン』。
彼の仕事は運転手だ。
高級車を転がし、裕福なアメリカ人たちの脚として働く。
ときには休憩中にホイールを盗まれそうになるが、自慢の『爪』で暴漢を撃退する。
はずが、いまは老いた。思うように身体が動かない。
追い払うだけのはずが、殺してしまわなければならないほど、胆力も筋力も衰えていた。
当然、罪は罪だ。人を殺して良い法律などどこにもない。
ただ、それはあくまでも人間の場合だ。ミュータントにミュータントの法律はない。
あるのは自分自身の中にある良心と、その呵責。
だから酒の量も増える。
過去の罪と、彼はいまもなお戦い続けているのだ。
戦場から帰還した兵士のように。
あるとき男が忠告に来る。
「この女を捜しているんだ。見つけたら俺のところへ連絡して欲しい」
右手が義手になっているその男の首にはドクロの入れ墨。
カタギの姿じゃない。
そしてローガンは知っている。
男の雇い主がアメリカ政府であるということを。
かと思えば、女から仕事が舞い込む。
メキシコ訛りの英語で、女はなんとか伝えようとする。
「私と娘を安全な場所『カナダとの国境』へ連れて行って欲しい。いますぐに」
だがローガンには「いますぐ」という条件は呑めなかった。
メキシコに残した老人の介護をしなくてはならないからだ。
いったん戻って準備を整えるローガン。
翌日、女の待つモーテルで見たものは、無残にも撃ち殺された女の死体だった。
危機を感じ、メキシコへ戻ったローガン。
「これは何だ」
仲間がトランクから見つけたのはボールとリュックサック。
どうやら娘が勝手に乗り込んで来ていたようだ。
だがもう遅い。義手の男が後を付けてきていた。
「女を見つけたら、俺に報告しろって言ったよなぁ」
男は銃を振りかざし威嚇するが、娘が投げた鉄パイプで気絶してしまう。
「おお、ローガン。あの子がそうだ。あの子が若いミュータントなんだ」
予知能力をもつ老人が指さす先には、10歳くらいの小さな女の子が物陰に隠れるように立っていた。
ローガンと、少女の、人生を巡る旅が始まろうとしていた。
感想。
ええっと、あらすじというか、シリーズはあんまり見ていないのでなんとも申し訳ないのだが、今回のヒューはコスチュームを着ません。
し、水平離着陸可能なサンダーバードみたいな戦闘機にも乗りません。
そんなんあったらすぐにこの映画終わってしまうわっ!
PVを見て分かっていたことですが、これはロードムービーで、少女がローガンと同じくアダマンチウム製の『爪』を生やすことが出来るミュータントであるということ。
で、おっそろしく強い。
海千山千の傭兵軍団を相手に、一人で立ち回ってしまう。
おまけに再生能力があるもんだから、少女の身体を銛が貫通しちゃったりなんかして、もうグロ表現には慣れっこの私ですが、さすがに「え、いいの?」ってな具合になりました。
で、その後もこの少女、容赦なく殺しまくります。
そりゃあもう気持ちいいほどに。
人間は敵、いや、銃を持った者は敵だと言わんばかりに。
(よく考えたらこの映画、ミュータントという設定無しでも成立しますよね。凄腕のナイフ使いと予言者のじじい、新人アサシンの少女って設定で)
これがアメリカの懐の広さ、なんでしょうかねぇ。
少女「ローラ」を演じる女の子は、ダフネ・キーン。イギリス出身なんですって。
間違いなくマーティンスコセッシの「タクシードライバー」に出ていた「ジョディ・フォスター」です。
同じ運命を辿る気がしてならない。ダフネ株があったら買えるだけ買うべきだ。
なんせ、この年でもうおっそろしいくらい美人(12歳の子にこの表現はアメリカ人からしたら非常識とののしられるかもしれないが)、というか色気がありやがる。
そりゃもうスクリーンに写っているだけで間が持ってしまうほどに。
肝心のローガンはというと、ヒューのどことなく頼りない風な演技(脚が悪いような歩き方)からも分かるとおり、再生能力を持っているはずが、そこまで再生しなくなってきているという設定。
理由は明らかにされていませんでしたが、どうやらローガン自身が過去に人を殺めたことで自暴自棄になり(帰還兵のような)酒浸りになって、死にたいと願うようになった。
というか、もう再生能力使いすぎで寿命のような感じに。
これは自殺を考えていることも含め、メタルギアのオールドスネイクだなと感じた。
再生能力があるばかりに、楽に死ねないローガンの唯一の救いはアダマンチウム製の弾丸。
そして金を貯めて「太陽の風」号というヨットを買って、教授とともに海の上で死のうとしている。
まあ、分からなくもない。
特殊な能力をもったままアルツハイマーになるという恐怖をアメリカさんは描いている。これぞ高度医療社会がもたらした弊害じゃー、とまでは言ってない。
うん。
ミュータントのアルツハイマー、マジ迷惑。
教授が発作を起こせば、一般人は身動きすらとれない麻痺状態になる。
それも、けっこう広い範囲で。
今後はあれか、そこまで考えなきゃならんのか。
拳志郎がアルツ。悟空がアルツ。少佐がアルツ。アムロがアルツ。
アルツありきで設定考える脚本家さん、マジ大変。
そして遺伝子組み換え食料にミュータント抑制薬をこっそり配合させて、この25年間はミュータント一人も出てきてなーい計画も成功。
(GSでローラが食べていたのもプリングルスだし、飲んでた缶ジュースにもコーンシロップ入ってるよね。ってそんなことどうでもいいか)
ローガンが出入りしていたメキシコ国境といい、一応は、この辺りアメリカが抱える問題をチラ見せしていたんでしょう。
ではこの映画の本質ってなーに?
ってことになってくるが、あれでしょ、「人生」でしょ。
老いて爪が出せない、身体が再生しないローガンは、それってつまりもう普通の人ってことじゃん?と気付かせてくれます。
事実、最後の最後、ローガンは人間の武器を使用します。
あれだけ人間が、ミュータントが、棲み分けが、って言っていたのに、両者を分けていたのは凶暴性ではなく特殊能力の有無だったのです。
能力を失った者は人間になれるのか。
人間らしくあってもいいのか。
しかし、映画の中で登場する人物たちはみな凶悪で、武器を手にし、自らの身体を戦闘のために改造していました。
ローラは研究所で作られ、外界を見たことがありませんでした。
それが、ローガンたちとの旅で景色に触れ、他人に触れます。
ヒーローものとしては極端に登場人物が少ない(と思ったのは私だけでしょうか)この映画の中で、唯一登場人物らしい登場人物に出会います。
マンソン一家です。
奥さん、あのピーター・ベントン先生よ。ERの。
父、母、子の三人で、ごく一般的な幸せを享受している彼ら。
彼らだって人間なのです。
そしてそんな人間たちを、ローラは見ていました。
旅の途中、教授とともにホテルの一室でローラは映画を見ます。
西部映画「シェーン」です。
私、見たことはないのでなんとも言えないのですが、この映画がローラに人生訓を教えています。
「罪は罪だ。どこまで行っても罪はついてくる。それは俺が背負って生きる」
このようなことを『シェーン』のラストシーンに流れます。
ローガンも「背負って生きろ」とだけ言うシーンがあります。
事実、その言葉通り、ローラはミュータントとしての道を歩むことになるのです。
これは人生の物語だ。
人生とは背負うこと。決意すること。戦うこと。愛し合うこと。認め合うこと。
そして後悔すること。誰かのために走ること。
そんな人生が詰まった映画なのです。
(劇中、映画によって教えられるってところに、ぐっと来たのは私だけでしょうか)
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伊藤計劃調で書いてみまして。ええ。