気まぐれ映画レビュー「ダンケルク」を観てきた。

今回、キャスト、音楽には特に触れないでおこうと思う。

 

良い悪いではなく、私が詳しくないうえに、特に調べてもいないからだ。

 

だから純粋な「映画」として評価してみたいと思う。

 

まず、これを観ようと思ったきっかけは、小島秀夫監督のツイートだった。

 

ツイートというか、多分、文春に寄稿した記事だったと思う。

 

チャップリンに代表される無声映画を例に取り、圧倒的台詞の少なさ、逃げるだけ、という物語のシンプルさ故の筋立ての強固さ、などについて触れていたと思う。

 

自身の代表作、ゲーム「メタルギアソリッド」は映画「大脱走」に着想を得た、戦闘を避けるゲームだった。

 

それは当時のゲーム機の性能では小島監督が本当にやりたい表現が叶わない、という制約の中から生まれたものだ。

 

まさに逆転の発想。実に現実的だ。

 

実際の戦闘で、好きこのんで一つしか無い命を危険にさらしてまで快感を得ようという輩はいないはずだ。それはよくあるアクション映画の中での話だ。

 

彼らは死なない。

 

それは主人公だからか、はたまた観客が求めているからか、それは作品のもつ性質にもよるが、奇をてらったミステリーでもない限り、主人公は死なない。

 

死なないと分かっていても、観客は手に汗握ってしまう。

そして、その危険というストレスから解放された瞬間が、映画の山場を迎え、観る者はカタルシスを得るのである。

 

この映画、中身についてどうこう言うのはよしておく。

そういう性質の映画であるし、観た者同士ならいくらでも語り合えそうだ。

それは実際のお友達とやればいいし、ここではまず、ダンケルクの表層から眺めたい。

 

レビュー

(ほんのりネタバレするつもりで、ガッツリ気付く人もいるかも。でもできればコレを読んで劇場に足を運んでくれたらこれ幸い)

 

前置きはさておき。

 

これは逃亡の映画である。「いわゆる逃げるが勝ち」というやつだ。

 

フランスとイギリス連合軍はドイツ軍にやられ、劣勢の中、ダンケルクの海岸から四十万人からの兵士を逃がさなければ次はない。

 

陸はドイツ軍に囲まれ、海もUボートの息遣いを感じる。

だが逃げるには海しか可能性がない。

なぜなら、このドーバー海峡さえ渡れれば、祖国イギリスの地なのだ。

そこでイギリス海軍は民間の漁船を徴用する。

ダンケルクへ。

兵士を救出するために。

小舟さえあれば、兵を駆逐艦まで運ぶことが出来る。

 

街を抜け、一人のイギリス兵士が海岸へたどり着く。

そこで目にしたのは大勢の兵士が列をなして、船への乗船を待っている光景だった。

だが敵は待ってくれない。

戦闘機が上空から爆音を響かせ降下してくる音に、皆が目を向ける。

行列を作っている場合ではない。逃げなければ死ぬ。

でも、どこに?

「空軍はなにしてやがるんだ」

容赦ない爆撃のあと、一人の兵士が叫んだ…………。

 

イギリス空軍所属「スピットファイア」三機が飛んでいる。

進路上に敵機を見つけては戦闘に入る。

爆撃機がいれば撃墜し、一機、また一機と仲間の数が減っていく。

三機が目指していたのはダンケルク

そこには疲れ果てた兵士がただ、死ぬのを待っている。

『自分だけは生きて祖国へ帰れる』という奇跡を信じて……

 

まず、始めに字幕が出るが、

『海岸/一週間』『船/三日』『空/三時間』というのがあった。

数字や文字は正確ではないと思うので、それは劇場で確かめて欲しいが、とにかく、この作品は三つの視点で語られる事になる。

 

それも、時間軸がずれた状態で、だ。

 

だから戦闘機が敵機を打ち落とす場面を、今度は洋上で、下からの視点で見ることになる。

 

まことにノーランらしい手法とでも言おうか。

(『メメント』以来......でもないか。『インターステラー』でも、時間の概念は出てきた訳だしね)

観客は先が分かる。

だけど、分からないよう撮ってある、と言ったらいいのか。

助かった、と安堵させておいて、実は結構なピンチだった、なんていう場面がいくつも出てくる。

 

一寸先は闇、状態。

 

それが戦争だからか、それが人間というものなのか、それが人生そのものの不条理性なんだよ、と言われている気がしなくもない。

 

並の戦争映画とちゃいますわ。これ。

もうね、弾を撃つという行為一つとっても色々考えてしまうわけです。

弾切れしたら死。

外したら死。

突然横から撃たれて死。

不時着しても助かると決まっていない。

 

空だけじゃありまへん。

海でもそうだす。

なにか一つ間違えば死ぬ。

一見、間違った行為だとしても、一秒後にはどうなっているか分からない。

むしろ、そのせいで助かっているかもしれない。

そんな場面を繰り返し見せられる映画だ。

 

で、そんな戦争、なんでやってるわけ?

馬鹿じゃないの?

という気にだんだんなってきます。

 

こんなに空は美しく、海は雄大で、人の力なんてちっぽけなモノなのに、殺し合い、海を大地を空を汚して、いまはそこから必死になって逃げようとしている。

 

だれも嬉々として戦争している者なんていない。

 

台詞は少ないが、充分わかる。

台詞で言う必要がないのだ。

戦争から逃げる。祖国へ帰る。生き残る。

ただそれだけの映画だ。

で、どうする?

生きるのだ。

だからこれは敗北ではない。逃げるのは敗北ではないのだ。

勝利。生き残ることが勝利なのだ。

あとは観客がどう生きるか、その後を選択するだけだ。

たとえここが、一寸先が闇の世界だったとしても。

 

メメント (字幕版)

メメント (字幕版)

 

 

 

クリストファー・ノーランの嘘  思想で読む映画論

クリストファー・ノーランの嘘 思想で読む映画論